介護生活No10「忘れられないBさんの事」

Bさん、82歳女性。夫と息子夫婦・孫3人の家族。パーキンソン病、脳出血の既往歴あり。右片麻痺言語障害軽度、杖を使って歩けるがすくみ足。小刻み歩行のため、歩行不安定。長谷川式5点。

日常生活では、食事は自分で食べられるが更衣・入浴・排泄は半介助(紙パンツ使用)家族との交流が少なく自室に引きこもり。食事も排泄(ポータブル使用)も自室で済ませ、用事のある時のみ出歩く。部屋の中は服や下着などが散らかっている状態。介護者は夫であるが高齢で病弱。足も悪く、夫の介護負担軽減のためデイケア利用となった。

このことが、今、私の仕事のバイブルになっています。

Bさんの在宅生活
デイケア利用中は穏やかに、静かに過ごされていましたが、
自宅に帰ると勝手に外へ出て行って家族への不満を近所に言い歩くことがあったり、
夫の介護に対してたたいたり、暴言を吐いたりの抵抗がみられるとの事でした。
Bさんを朝お迎えに行くと、まだ寝ていたり、食事を食べていなかったり、着替えができていなかったり、おトイレ中であったり・・・。
準備されていてもお部屋からなかなか出てこられないことがしばしばありました。
ご主人はただおろおろされている状態でした。
介護専門職からの提案
送迎職員は、ご主人にお聞きしたり、Bさんの様子をみてお手伝いさせていただいており、
時には、他の利用者さんのところへ行ってから、もう一度お迎えに行くなどしていました。
ご主人が大変そうにしておられ介護に限界があるのではと思えたこと、
バスに乗っているほかの利用者さんから送迎に時間がかかることに不平が出始めたこともあり、
ケアマネジャーを通して家族の協力を検討してもらうが無理な様子。
デイケア職員からこれから在宅生活を続けてもらうために、
送迎の送り出しや食事など身の周りのお世話にヘルパー導入を考えてみてはどうかと意見が多く出ました。(私もその一人でした)
ご家族の意見は・・・
しかし、家族はヘルパー利用に難色を示され、なかなか支援に繋がりませんでした。
何回かケアマネジャーと担当ワーカーがサービス導入を呼びかけたところ、家族から
「ヘルパー導入は嫌だから、入所の方向で」
と話しがあり、それから1カ月も経たないうちに入所となってしまいました。
思いもよらない展開に職員一同唖然とさせられました。
良かれと思って提案した事が家族を追い詰めてしまっていたのです。
病弱な父と認知症とパーキンソン病の母を抱え、先の見えない不安で張り詰めていた糸が
「プチっと」切れてしまい
「もうだめだ」
というところまで追い込まれてしまったのだと推察します。
家族の思いを量り切れず、一面だけを見て判断し、自分たちの意見が正しいと思い込み、家族の気持ちを無視した形で、
一方的に自分たちの意見を押し付けていたのだ
という事を気づかされ反省しました。
Bさんは今も在宅生活を送れていたのかもしれないという苦い思いが残っています。
入所当日はデイケアからの旅立ちとなりましたが、Bさんがテーブルにしがみつき
「私はいかんざー」
と泣いておられた姿が目に焼き付いています。
「ぽーれぽーれ」通巻338号 2008年9月25日発刊より抜粋
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