介護生活No7【認知症さんへのお便り】

昔、あなたの事を「呆け」と言いました。

それから痴呆症という名になって、今では「認知症」と呼んでいます。

呼び方が変わっても、あなたの老人に対する攻撃はちっともかわっていませんね。

 

認知症さん、あなたが主人に取り付いてから、かれこれ数年になるんでしょうか?

その頃の貴方は、まだまだ遠慮がちでした。

平成18年、秋、主人は膀胱がんになりました。その頃から貴方は、本領を発揮してきました。

そして、翌年、軽トラは廃車になり、主人の前から消えました。

運転免許証も、期限切れで自然消滅となりました。

あなたはますます、その本領を発揮して、主人の頭の中にあった記憶の糸がほとんど切れてしまいました。

介護保険で、デイサービスのお世話になっていますが、半年以上になるのに、

どこへ行くのか、何をするのか、誰が一緒に行っているのか、ごはんを食べたことも、おやつを頂いたことも・・・全部、全部、お忘れです。

帰ってくると、ハラペコだ、と、おっしゃいます。

 

眼がみえん、眼がみえん、と言いながら、三種類の目薬の点眼の際には、時間を待ちきれずに途中で出て行って。

私の点眼作業は、中断です。

私の中では、そんな時、優しい仏様の心がどこかへ飛んでいき、鬼の心がむくむくと、起こってくるのです。

私も、痛い足を引きずりながら、杖に縋って、とても辛いのです。

認知症さん、これ以上、主人の頭の中で暴れないで下さい。

これ以上、暴れられると、私は潰れてしまいます。

トコトコ、トコトコ歩く主人が、今はまだ家を忘れずに帰ってきます。

夜も、徘徊せずに眠ってくれます。

 

どうか、どうか、これ以上暴れないでください。

 

「ぽーれぽーれ」通巻336号2008年7月25日発刊より抜粋