介護生活No12「グループホームでの出逢い。そして寄り添える喜び」

Aさんに「今日、私もお風呂一緒につかろうと思うんだけど」と話すと「あら、うれしいわ。一緒に入りましょうね。」と指切りげんまんしてくれる。
寄り添った分、関わった分、感動を頂ける。それを喜びに日々支援させてもらえる事に感謝です。
ホームを開設したすぐにご入居されてこられたAさん当時81歳女性要介護度1。
小走りでチョコチョコと歩かれる方。ホームのうす緑色のソファーを気に入ってくれた様子でちょこんと座り、穏やかに話されていた姿を思い出します。
ご家族の方の話では、頑固でめんどくさがりな所があり、在宅訪問のヘルパーさんが入浴を進めても半年近く入浴を拒否され入浴をされていなかったと聞かされた。
一緒にホームでの生活が始まる・・・。
お風呂に自分で入ろうと思うには・・・。
第一の課題はどうやってお風呂に入ってもらえるかだった。
食事の時や何気ない会話の中でお風呂の話を出してみたり、スタッフが代わる代わる色んな手を使って話しかける日々が続いた。
嫌がるのを無理やりお風呂に入ってもらうのではなく、ご自分で入ってみようかな、と思ってくれる日まで待った。
スタッフ間では「昨日はどう。お風呂は入ってくれた」が合言葉になり、2週間、3週間と過ぎた。
ある日、私が勤務の時、一緒にお付き合いをしようと心に決め、寄り添ってみる事にした。
昼食事、Aさんに「今日、私もお風呂一緒につかろうと思うんだけど」
と話すと「あら、うれしいわ。一緒に入りましょうね。」
と指きりげんまんをしてくれる。
毎日約束するときは、とても良い返事を返してくれるので心配であったが、他のご入居さんたちと一緒に何とか脱衣所までは行ってくれた。
昔の話をしたり、冗談を言ったりしながらスタッフが一枚一枚服を脱いでいると隣に居るAさんも一枚一枚服を脱いでおられた。
今まで待った甲斐があり、ご自分でお風呂に入ろうと思ってくれた事が何より嬉しくて、感動でした。
ホームのお風呂はヒノキ風呂。
皆さんで裸のお付き合いをし、体を洗って湯舟に浸かると、Aさんも気持ちよさそうにタオルでゴシゴシとこすり始めた。
するとお風呂一面に今までの垢が浮いてきた事を思い出します。
びっくりした思い出
お茶目でめんどくさがり、時にはびっくりさせられることも。
買物にはあまり参加されない方で、いつものようにスタッフが買物袋を持って帰ると一緒に台所まで運んでくれて冷蔵庫の中にしまってくれる。
スタッフが、ソーっと隠れて見ていると好きなお菓子や果物を自分のおなかに忍ばせ、居室の中へ毎日のように持っていくこともあった。
それをまた気づかれないように戻すのが私たちの日課になっていた。
ある時は夜間スタッフがリビングで寝たふりをしていると静かに台所まで入って来られ、背の小さいAさんは、冷蔵庫や戸棚の中もお饅頭や果物を菜箸を上手に使いとることもあった。
ご入居さんのやりたい事を何でも制止する事ではなく、見守る事を大切にする。このホームでしか出来ない事ですね。
入院中の食事介助
そんなAさんもこのホームでの生活も4年を過ぎようとしています。
この夏体調を崩され、病院に入院する事になった。
なかなか食事を摂ってもらえず、何日も2口、3口。
ナースやワーカーさんも困っておられ、ドクターからもこのままだと胃ろうになってしまうと聞かされた。
「Aさんにどうにかして食事を摂って貰いたい。」
との思いで食事介助に行くこととなった。
病院に顔を出すと、にこっと笑って手を振ってくれた。食事介助をはじめ3口、4口食べると
「もういらないわ」と口を閉じてしまう。
うーん如何しようか。
どうにかして口を開けてもらおうと
「喉いたくない。見せてくれる?」
「入歯はどう?」
「奥歯見せて。」
と口を開けてもらえる。
口を開けてくれたところでスプーンで食べていただく。
根気強く食事介助を続ける。
時間はかかるが全て食べていただけた。
頑張って食べてくれたAさんを見ると涙が出るほどうれしかった。
次の日もその次の日もスタッフが代わる代わる食事介助に通う。
だんだん体調もよくなりホームに帰ることが出来た。
退院後
現在、立位困難で車いす生活。食事、入浴以外ほとんど横になられている。
もうあの頃の元気な姿は見られませんが心のこもったスタッフ手作り食を「おいしいわ」を食べてくださる。
ホームの中に響き渡る他のご入居さんやスタッフの笑い声の聞こえる中で生活されています。
ご家族のご意向で最期は子家族のお住まいの他県に移られる事が決まっていますが、このホームで残された時間、後どれだけ寄り添えることができるだろうか。
私たちの出来ること、Aさんがその一瞬一瞬を喜んで貰えるように寄り添い、思い出を一杯作ってあげたいと思っています。
寄り添った分、関わった分感動を頂ける。
それを喜びに日々支援させてもらえる事に感謝です。
まだまだ経験も浅く、未熟ですが、ご入居さんと一緒に人生を歩ませてもらえる喜びを大切にし、心あるケアをしていきたいと思っています。
「ぽーれぽーれ」通巻340号2008年11月25日発刊より抜粋
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