介護生活 vol 1「少年 厨房に入る」

母(84歳) 2年前、心不全で4か月入院。退院後、専門医の診察を受けたところ重度のアルツハイマー型という診断。一年前に大腿骨骨折。現在、自立歩行不可・車いす生活。全介助。
要介護4、週5日デイサービス等のお世話になっている。私(63歳) 無職 畑をしながら家の留守番等
妻(55歳) 現職 出勤7時45分前後 帰宅7時前後
社会人の息子と娘の5人家族の生活。
 家族の会のつどいで、奥様を介護しておられる方から「現在、家事の半分は自分がおこなっている」というお話をお聞きし、反省させられた。
私は、何をしているか?
母親が、全介助の状態になってから、今までしたことがない事を少しずつしているだけである。
まず、おむつ交換。従兄弟に「必ずしなければならない時がやってくる。自分もやってきたから、お前もできる。その時が来たら教えてやるから頑張れ」とありがたいエールを頂いた。
その時があまりにも早く来すぎて戸惑いながらも、何とか出来るようになってきた。
妻がいる時は、正直、ホッとする。
洗面の介助。義歯を外すのは簡単に出来るが、洗った後、はめ方が分からず困った。最近、試行錯誤でやっとはめ方が分かってきた。
料理が少しできるようになってきた。母親の夕食時間が早いため、時には味噌汁程度は作らなければならない。味噌汁から出発して、最近では、娘の高校時代の調理実習の教科書を見ながら、おひたし、てんぷら、肉じゃが、野菜炒めなどもできるようになった。
私が料理ごときのものや、家事の一部をするのは、我が家にとって革命的なことである。
というのは、学生時代、明治生まれのおばあさんの家に下宿をしていた。「私は明治の女。「少年厨房に入るべからず」学問に励んでください」というおばあさんの教えを、学問を学んでいないのに40年余り、頑なに守ってきたからである。
このように、母親の認知症発症以来、今までにしたことのないようなことをせざるを得なくなってきた。その中で、一家の主として1番の仕事が「家庭の危機管理」
今以上に、悪い状態を作り出さない事である。
まず、家族の心と体の健康。
私の友人から「相手の立場を考え、思いやりといたわり合いの心を持つことが家庭の危機管理の第一歩」とアドバイスをうけているのだが・・・・。誰かが病気で倒れると、大げさかもしれないが、家庭崩壊になる。私が、「厨房に入る」のも、家庭の危機管理の一つで家族の負担を軽くするためと考えている。
こころの健康がさらに大きな問題
 母親は、時間があると広告を畳んだり、破いたりしている。こんなことしかできなくなったのかと悲しくなる。そんな時、「広告破りをすると、左手も使い、大脳の右側にある感情の中枢を刺激することになり非常に良い事である」とお聞きした。以来、広告破りをしていても心の負担にならなくなってきた。
認知症を家族全員が正しく理解することが危機管理の基本であると再確認させられた。
毎日の「広告破り」を見ながら「ぽーれぽーれ」を読まなければと思った次第である。
「ぽーれぽーれ」通巻331号 2008年2月25日発行「介護生活」から抜粋